
デモ行進の取り締まりをきっかけに労使の調停に乗り出した奈良署は、6分の値上げなら妥結可能という職工組合側の回答を引き出す。一方、26日午前5時、業主組合側は「3分の値上げと見習い職工の組合加入金の全廃」という最終案を提示。28日、職工組合の代表2名が奈良署を訪れ、見習い職工の加入金を全廃してしまうと、業主側が無制限に見習い職工を受け入れてしまうということで、これに反対。3分の値上げと見習い職工の組合加入金制度の来年6月までの現状維持を受け入れるという回答を打ち出す。これによって争議は解決するかと思われたが、今度はまたまた業主側が賃上げを来年6月まで延期するといいだし、一時は妥結するかに見えた交渉に暗雲が垂れ込める。ここでケッサクなのは、本来、国家や資本の立場に組する奈良署の特高係が、そんな業主側の不誠実をたしなめていることである。結局、2分の賃上げと見習い職工の組合加入金制度の来年6月までの現状維持という2点で労使の妥結がはかられ、誓約書に調印。翌年6月、見習い職工の組合加入金問題についても妥結がはかられ、労働争議は一応の解決をみるが、読み進めるなかで私が思わずふき出したのは、本件について報道する「奈良新聞」11月27日付けの記事の見出しである。すなわち、「墨屋騒動、解決見込めず依然まっ暗、ムンズと組んだ取り組みは4本柱で墨汁流す」。いろいろな意味で何とも奈良らしい、のんびりした労働争議であったといってしまうと、我が家の先祖もふくめ、先人たちに失礼であろうか。
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