
三島由紀夫の『潮騒』は高校生のときに読んだ。しかし、当時の読後感をまったくおぼえていない。本当に読んだのだろうかと思うほど、ストーリーもふくめて綺麗さっぱり忘れていた。そんな『潮騒』を仕事で読み返す機会があったのは、2年ほど前のことである。たまたまどこかへ出掛けている最中に電車のなかで読んだのであった。読んで真っ先に抱いたのは、主人公の若い男女がもっとも地味であるという印象であった。主人公であるというにもかかわらず、まったく精彩を欠いている。むしろ、わき役たちの方が生き生きとしている。あらためてページをめくる気も起きないため、登場人物の人物を失念しているが、まるでお人形さんのような2人を結びつけようとするおせっかいなオバさんの方がよほど生き生きとしている。その意味では特異であり、いわゆる近代小説としてとらえるべきではない小説なのかも知れない。三島由紀夫の作品のなかでは人気のある小説らしい。しかし、なぜ人気があるのか、私にはさっぱりわからない。ただし、舞台となった神島にはいつか行ってみたいと思う。『潮騒』はそれで充分ではなかろうか。
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