
先日、偶然にも某古書店で李亀烈著・南永昌訳『失われた朝鮮文化−日本侵略下の韓国文化財秘話』(新泉社/1993年)を買い求めた。日本の統治下にあった20世紀の前半、朝鮮半島に進出した日本人が現地の文化財を盗掘・略奪していった経緯を紹介した論考である。驚いたのは、先日、訪れた慶州の仏国寺や石窟庵も略奪の対象となっていることである。たとえば、仏国寺の多宝塔の四隅には、本来、獅子の石像が置かれていたという。しかし、現在は四体のうちの一体しか残されていない。そのことは、仏国寺を訪れ、多宝塔を目にしたときに気付いていた。しかし、なぜ、一体しか安置されていないのか、その理由まではわからなかった。まさか、その石像まで略奪の対象になっていたとは。貴重なのは、盗掘をおこなったり、それを指示したり、収奪した文化財を売買したりした数々の日本人が実名で紹介されていることである。軽部慈恩のようにみずから手を汚して墳墓をあばき、その埋蔵品を略奪したものや小倉武之助や市田次郎のように、略奪されたものを買い取り、朝鮮の独立後はそれを日本に持ち帰ったもの、おびただしい数の発掘品をみずからのコレクションとしたり、贈答品として求めたりした伊藤博文や寺内正毅のような政治家など、実にさまざまである。筆者は当時の回顧録や報告書などを丹念に調査し、実名を公表しているが、その具体性が本書に強いリアリティをもたらしている。その点でも労作であるといえよう。それとともに、われわれの先人が朝鮮半島でこれほどひどいことをやっていたことに申し訳ない気持ちを抱かせられる。日本における朝鮮考古学や朝鮮文化研究の発展がこういった日本の植民地主義とそれによって引き起こされた盗掘・略奪の上に成り立っていたことを忘れてはならない。
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