
青木茂の『華北の万人坑と中国人強制連行―日本の侵略加害の現場を訪ねる』(花伝社/2017年)を読んだのは、昨年末のことである。相方と飲んでいた折、「万人坑」の話になったのである。本書は相方から借り受けた。万人坑のことは以前より知っていた。しかし、実際に現地に足を運び、その実像を紹介した本書のようなルポルタージュを読むのは、今回がはじめてであった。本書を読み、私自身、いずれは現地におもむき、その様子を見学したいという思いを強く抱いた。とりわけ、ミイラ化した中国人徴用工の遺体がうず高く堆積した大同炭鉱の万人坑は是非とも訪れたい。戦争というと、われわれはその主体として軍隊だけをイメージしがちである。しかし、軍隊の進出した後には民間企業あるいは国営企業が進出して来る。企業は多くの現地人を工員として徴用する。徴用工が死亡すると、遺体は近くに埋葬される。その数が増えると始末に負えなくなって万人坑が出来上がる。日本国内においてのみ流通する自足的な言説空間であれば、その事実をデタラメであるといって済ませることも出来るだろう。その言説に共感するものも多いだろう。死人に口なし、である。しかし、当事者は死んでも、その遺族や関係者は生きている。彼らを実際に目の前にして、万人坑などお前たちのでっち上げたデタラメであるといって、その事実を否定することが出来るだろうか。もちろん、遺族や関係者もいつかは亡くなる。しかし、それでも彼らの口を封じることは出来ない。彼らが死んでも、さらにその子や孫がその事実を語り継いでいくからである。それが歴史というものだ。
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