2014年10月06日

後藤明生を読む会(第22回)

後藤明生を読む会(第21回)→こちら

昨日は後藤明生を読む会の第22回がもよおされた。今回のテキストは「謎の手紙をめぐる数通の手紙」(初出は「すばる」1983年9月号)。いつものように代表の発表者が基調報告をおこなった。その後、参加者のあいだで討議がおこなわれた。今回も話題となった事柄をアトランダムに列記しておく。

・エニグマからの怪文書を第1の手紙として計7通の手紙から構成される
・エニグマがC・Dに宛てた手紙(怪文書)=第1・4・7の手紙、それに対するC・DからA・Bへの手紙=第2・5の手紙、C・Dからの手紙に対するA・Bの返信=第3・6の手紙の3種類からなる
・A・Bがエニグマ男からの手紙を実際に詠んだ感想が記されるのが第6の手紙であり、エニグマの求めているのが、手紙の送り先であるC・Dではなく、A・Bからの応答であるといったように、単純な往復書簡ではない
・エニグマからのC・D宛ての手紙は矢継ぎ早に送られているのに対して、海外出張などて忙しいA・Bの反応がもっとも鈍い。往復書簡に緩急をつけることにより、三人の関係を浮き彫りにする手法
・自分の鼻についての秘密がどこから漏れたのかということがエニグマの最大の関心事なのに対して、C・DやA・Bはエニグマの鼻の秘密自体にはさほどの関心がない。むしろ、エニグマは何者かという点に関心が向けられており、往復書簡によって、そのズレも浮き彫りになる
・秘密にしておきたい事柄があるがゆえにかえって秘密を覆い隠さんばかりに饒舌になるエニグマ=隠そうとすることとあらわにすることとの矛盾そのものが言語の特質
・必ずしもすべての真実や事実、思いを正直に語っているとは限らない書簡体という形式(文学の世界における)は言語の持つ矛盾した二重性を顕在化させるのに有効な形式か?
・エニグマの抗弁する言辞(例・自分の手紙は怪文書の類ではない、自分は決してあやしいものではないなどの言明)がその否定の対象そのものを肯定的にあらわしてしまうという矛盾・逆説
・エニグマと同じ言動をとってしまうC・D(エニグマ=C・D説の根拠/A・Bはエニグマ=C・Dとどこかで考えているか?)
・単行本版『謎の手紙をめぐる数通の手紙』所収の「目には目」の語り手とエニグマとが重なるか?
・エニグマの手紙を受け取ったことで、C・Dの言動がエニグマに似て来てしまう(アンチ・エニグマ=C・D説)
・エニグマとは何者なのかという問いそのものの無効性
・第6の手紙で語られる整形の主体がエニグマであるとは限らないこと(あくまで1つの可能性に過ぎないことであり、決して答えではない)
・謎ばかりが増殖していく書き方
・ゴーゴリの『鼻』に対する言及があることにより、読み手はエニグマの鼻のエピソードが『鼻』のパロディかと思い込んでしまうが、第6の手紙で美容整形の話を持ち出すことにより、エニグマの鼻=ゴーゴリの『鼻』という読み手のイメージそのものを脱臼させてしまう
・第1の手紙のなかで描かれるエニグマとA・Bとの鼻問答を最初読むと、なにやら辻褄の合わない思弁的・哲学的なものとイメージしてしまうが、第6の手紙で語られる美容整形の話まで読み進めると、前者の問答が美容整形を前提とした話であったのかというようにそのイメージががらりと変わってしまう(しかし、美容整形の話はあくまで一つの可能性に過ぎず、別の可能性として考えられる鼻のエピソードが語られたとしたら、前者の問答はまた別のイメージに変貌してしまう/後ろの話が前の話の持つイメージを規定してしまうという構造/前から後ろへと話は進行しながら、同時に後ろから前へというベクトルも持つ構造)
・往復書簡体小説という形式に対する後藤明生の関心は、「謎の手紙をめぐる数通の手紙」の発表と同じタイミングで連載のはじまる『ドストエフスキーのペテルブルグ』所収の『貧しき人々』に対する過度の言及からもうかがえる(往復書簡体形式の小説である『貧しき人々』に対する言及は全体の4分の1におよぶ)
・80年代以降、書簡体形式の小説が数多く書かれることとなるという点を踏まえると、「謎の手紙をめぐる数通の手紙」のターニングポイントとなる作品か?
・「謎の手紙をめぐる数通の手紙」以後の書簡体小説を読むと、一作ごとにその可能性を切り開こうとした試みが見られ、決して同じ形式の繰り返しではないことがわかる
・「手紙」を「メール」に置き換えると、現代でもリアリティが感じられる話
・トランプゲームとしての「ブタの尻尾」について
・「口から毒を吐く怪獣」(p22)とは何か?
・「噂男」(p23)は小島信夫の『島』に登場する「噂男」と関係するか?

次回の研究会は来年1月頃、テキストは『四十歳のオブローモフ』を予定している。その前に年末恒例の文学散歩&忘年会も予定。あらためて告知します。
ラベル:後藤明生
posted by 乾口達司 at 10:16| 奈良 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 自己 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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