2008年10月17日

長尾五一『病気と縁起』

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長尾五一は東大寺の名僧・清水公照の実兄である。実弟は仏の道に進んだ。それに対して、長尾五一は医師としての道を選んだ。陸軍の軍医として中国大陸へ何度も出掛けたという。戦後は奈良の油阪で小さな病院を開業していた。いまでも建物が大宮通り沿いに残されている。我が家の主治医だったせいだろう。私や実家のものはいまでも親しみをこめて「長尾さん」と呼んでいる。子どものころは良くお世話になったものだ。『病気と縁起』(昭和45年11月、あしや書房刊)は「中二階」から出て来た。「中二階」のことは10月10日の日記に記したとおりである。他にも『東と西』『遠くて近き』と題された歌集2冊も見つかった。「長尾さん」が仏教美術に造詣が深いことは知っていた。それに類する書籍を出版していることも知っていた。しかし、歌集まで刊行しているとは知らなかった。『病気と縁起』は「長尾さん」の専門である医学と俗信・俗説、呪術、宗教、陰陽道、卜占術、暦法、祈祷といった類との関係を綴った論考である。その啓蒙的な内容もさることながら、「長尾さん」の文章そのものが魅力的である。例えば、「麻疹は子供の大厄」という項目は次のように解説されている。

恋愛とともに一生に一度はかかるという麻疹に、愛児が罹ると、親たちは大騒ぎする。風にあてるな、間温め、ネンネコぐるみと暑い時でも発汗療法を行うので、幼児は苦しんでいる。肺炎や中耳炎などの合併症を予防すれば無事経過するので、今日ではさほど恐れる必要はない。またワクチンも完成しつつあるので、恋愛の自由な時世となり、麻疹が姿を消す日も遠くあるまい。

ほかにも「夏やせ寒ぼそり」では「年中痩せていて一向に太らぬこと、骨皮筋衛門、カマキリ、ソッポに対し、今やアンコ、デブ、グラマー、ビール樽、肥満児が増えてきた」と記されている。「臍まがり、つむじまがり」では「意地悪の意味。臍の曲っている時は腫瘍、腹膜の癒着を考えねばならぬから、腹中をよく探らねばならぬ」と記されている。「馬鹿につける薬なし」にいたっては「現在でも良薬なし」である。こういったユーモア精神は「長尾さん」の真骨頂である。子どもの頃、診察してくれたときの飄々とした言動がよみがえって来た。「長尾さん」が鬼籍に入ってもう何年が経つのだろう。我が家にとっては懐かしい人の一人である。
ラベル:東大寺 医師 縁起
posted by 乾口達司 at 21:39| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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