2012年08月16日

後藤明生を読む会(第11回)レジュメA

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B<穴>としての都市空間
『しんとく問答』には大阪府下にある公園や神社仏閣が数多く登場する。これらに共通する特徴は、郊外に見られるようなどこまでが公園でどこからが自然の野山であるのかわからないような空間とは異なり、高層ビルや住宅地にとりかこまれ、区画されていることである。それらは都市空間のなかにぽっかり空いた<穴>、都市空間のなかの別の空間といった属性をそなえている。「私」はその<穴>の内部や周辺を歩くことでさまざまな人や出来事と偶然に遭遇する。その意味でそれらは後藤明生の作品を特徴づける「とつぜん」という言葉を空間化したものであるといえる。後藤明生は<穴>を<穴>たらしめるためにその中心となるべき事物や出来事を排除する一方、マージナルな属性をそなえた人や事物を積極的に投入している。その代表格は俊徳丸である。

●言及されている場所→出典→描かれる人&モノ
・越中公園→「マーラーの夜」→大阪のディオゲネス
・難波宮跡公園→「十七枚の写真」→大阪城ワッソ・大阪のディオゲネス・鉄の骨組みだけの藤棚・大極殿跡の石舞台・歩兵第八聯隊碑文
・中大江公園→「十七枚の写真」→宇野浩二の文学碑・作業服に作業帽の男
・大阪城公園→「大阪城ワッソ」「四天王寺ワッソ」→屋台・韓国人・片足のないハト・ナツメロ剣舞・子供連れの夫婦・主婦・カップル・四天王寺ワッソの練習隊
・四天王寺→「四天王寺ワッソ」「俊徳道」→四天王寺ワッソを終えた演者たち・見物人の後頭部・大阪のディオゲネス・亀池の亀
・誓願寺→「俊徳道」→西鶴の墓・高校生か予備校生のカップル
・生国魂神社→「俊徳道」→西鶴の銅像・屋台の関係者・通りかかりのお婆さん
・寺田町公園→「贋俊徳道名所図会」→町内対抗の草野球チーム
・久保神社→「贋俊徳道名所図会」→ドーナツ石
・コウモリ傘とその下につながれた仔犬のいる空地→「贋俊徳道名所図会」→コウモリ傘とその下につながれた仔犬
・俊徳丸鏡塚→「しんとく問答」→老婦人・菊老人

<穴>は時間の裂け目も作っている。その代表的な例としてロッキングチェアにすわる「私」が火曜日の「私」と日曜日の「私」に分裂している「マーラーの夜」の一節をあげておく。ここからは時間もまた過去(火曜日)と現在(日曜日)とのあいだでぽっかり空いた<穴>を形成している。そして、それは「訳のわからない不思議な歌」のチグハグさとも対応している。「ダートー ベーイエイ」が戦時中の象徴だとすれば、それ以外の歌詞は平和が行き届いた戦後の象徴である。「訳のわからない不思議な歌」でも戦時中と戦後という複数の時間が統合されることなく、共存する形で一つの<穴>=亀裂を形成している。
ラベル:後藤明生
posted by 乾口達司 at 22:54| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 自己 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする